— 数の型を作る(Grothendieck群編) —

最終更新日:2025-10-31
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前回の数の型を作る(自然数編) では、Haskellの型システムを用いて自然数を構成した。次はもちろん、自然数から整数を構成する。 自然数から整数を構成しようと思ったとき、各自然数の符号を反転した元を追加し、そこに加法やら乗法やらを定めれば良い。 しかしここで、この「各自然数の符号を反転した元を追加する」という操作は圏論的な意味で普遍なのだろうかという疑問が生じる。 また、形式的に逆元を追加していくのは、代数的に意味をなすのかという疑問も生じる。 これらの疑問に答えるため、この記事では一般的に可換モノイドから自然に得られる可換群の構成を行う。

モノイド・群

まずは基本的な言葉の定義をしていく。

▷定義 (二項演算)

空でない集合MMについて、写像 μ:M×MM\mu:M\times M\longrightarrow MMM上の二項演算あるいは単に演算という。

文脈上μ\muが固定されている場合、MMの元a,ba,bに対してμ(a,b)\mu(a,b)aba\cdot bababと書くことが多い。 また、μ\muが可換である、即ち任意のMMの元a,ba,bに対してμ(a,b)\mu(a,b)μ(b,a)\mu(b,a)が等しいとき、μ(a,b)\mu(a,b)a+ba+bと書く。

例えば、自然数全体の集合N\mathbb{N}に対して、+:N×NN  ;  (m,n)m+n+:\mathbb{N}\times\mathbb{N} \longrightarrow \mathbb{N}\;;\;(m,n)\mapsto m+nは二項演算であり、 また、  :N×NN  ;  (m,n)mn\cdot\;:\mathbb{N}\times\mathbb{N} \longrightarrow \mathbb{N}\;;\;(m,n)\mapsto mnも二項演算である。

▷定義 (半群)

空でない集合MM上の演算μ:M×MM\mu:M\times M \longrightarrow Mが結合的であるとき、つまり、任意のMMの元a,b,ca,b,cに対して

a(bc)=(ab)c\begin{equation*} a(bc)=(ab)c \end{equation*}

が成り立つとき、(M,μ)(M,\mu)を半群という。このとき、a(bc)a(bc)は括弧の入れ方に依らず一意に定まるので、単にこれをabcabcと書く。

自然数に定まる通常の和と積は結合的であるので、それらの演算に関して、N\mathbb{N}は半群になる。

▷定義 (単位元)

(M,μ)(M,\mu)を半群とする。MMの元eeが任意のMMの元aaに対し、ae=ea=aae=ea=aを満たすとき、これを(M,μ)(M,\mu)の単位元と呼ぶ。

半群(N,+)(\mathbb{N},+)について、00は単位元である。また、半群(N,)(\mathbb{N},\cdot)については11が単位元である。 実は、半群において単位元が存在すれば一意である。

▶命題.

半群(M,μ)(M,\mu)に対し単位元が存在すれば、それはただ一つに定まる。

【証明】

eeee'(M,μ)(M,\mu)の単位元であれば、e=ee=ee=ee'=e'となる。

▷定義 (モノイド)

(M,μ,e)(M,\mu,e)がモノイドであるとは、(M,μ)(M,\mu)が単位元eeを持つ半群であるということ。

例えば、(N,+,0)(\mathbb{N},+,0)(N,,1)(\mathbb{N},\cdot,1)はモノイドになる。

▷定義 (可換モノイド)

モノイド(M,μ,e)(M,\mu,e)の演算μ\muが可換なとき、このモノイドを可換モノイドと呼ぶ。

▷定義 (モノイド準同型)

(M,μ,eM)(M,\mu,e_{M})(N,ν,eN)(N,\nu,e_{N})をモノイドとする。写像f:MNf:M\longrightarrow Nが以下の条件を満たすとき、ffをモノイド準同型という。

・任意のa,bMa,b\in Mに対してf(μ(a,b))=ν(f(a),f(b))f(\mu(a,b))=\nu(f(a),f(b))が成り立つ。

f(eM)=eN.f(e_{M})=e_{N}.

任意のモノイド(M,μ,e)(M,\mu,e)に対してidM\mathop\mathrm{id}_{M}はモノイド準同型である。モノイド準同型の合成もまたモノイド準同型である。

▷定義 (モノイドのなす圏)

ObjMon\mathop\mathrm{Obj}\mathsf{Mon}をモノイドの集まり、モノイドM,NM,Nに対してHomMon(M,N)\mathrm{Hom}_\mathsf{Mon}(M,N)MMからNNへのモノイド準同型の集まり、射の合成はモノイド準同型の合成とすると、Mon\mathsf{Mon}は圏になる。同様に、可換モノイドのなす圏を定めることができ、この圏をCMon\mathsf{CMon}と書く。

▷定義 (逆元)

(M,μ,e)(M,\mu,e)をモノイドとする。MMの元xxに対して、あるMMの元xx'が存在してxx=xx=exx'=x'x=eとなるとき、このようなxx'xxの逆元という。逆元を持つ元を可逆元という。

▶命題.

(M,μ,e)(M,\mu,e)をモノイドとする。MMの元xxの逆元が存在すれば、それはただ一つである。よって、xxの逆元があれば、それをx1x^{-1}とかき、MMが可換モノイドの場合、xxの逆元をx-xと書く。

【証明】

xx'xx''xxの逆元とする。このとき、x=xe=x(xx)=(xx)x=ex=xx'=x'e=x'(xx'')=(x'x)x''=ex''=x''となる。

▷定義 (群)

任意の元が可逆元であるようなモノイドを群と呼ぶ。また、演算が可換になるような群を可換群という。群のなす圏をGrp\mathsf{Grp}、可換群のなす圏をCGrp\mathsf{CGrp}と書く。もちろんこれらの対象は群(可換群)であり、射はモノイド準同型である。

(N,+,0)(\mathbb{N},+,0)はモノイドであるが、群ではない。実際、1+n=01+n=0となるnnが存在したとすると、00に後者が存在することになり、矛盾する。つまり、11は可逆元ではない。 我々がよく知っている整数とその加法について、(Z,+,0)(\mathbb{Z},+,0)は群になる。実際、これはモノイドになり、かつ任意のZ\mathbb{Z}の元nnについて逆元n-nが存在する。

Grothendieck群

先に述べた通り、(N,+,0)(\mathbb{N},+,0)はモノイドであるが群ではない、しかし(Z,+,0)(\mathbb{Z},+,0)は群になった。この二つの違いは、Z\mathbb{Z}はすべてのが可逆元であるが、N\mathbb{N}はそうでないことに由来する。 我々が知っているように、整数全体の集合は、すべての自然数に対しその加法に関する逆元を追加した集合になる。 つまり、モノイド(N,+,0)(\mathbb{N},+,0)に逆元をうまく追加して群(Z,+,0)(\mathbb{Z},+,0)を作っているのだ。 この操作を一般のモノイドに対して考えてみると、現れてくるのがGrothendieck群である。

これ以降、可換モノイドの演算を++と書き、単位元を00とする。また、可換モノイド(M,+,0)(M,+,0)を単にMMと表す。

▶命題.

MMを可換モノイドとする。M×MM\times M上の関係\sim

(m1,n1)(m2,n2)kM  m1+n2+k=m2+n1+k\begin{align*} &(m_{1},n_{1})\sim (m_{2},n_{2})\\ &\Longleftrightarrow \exists k\in M\; m_{1}+n_{2}+k=m_{2}+n_{1}+k \end{align*}

と定めれば、これは同値関係となる。

【証明】

対称律、反射律は明らかである。推移律を示そう。(m1,n1)(m2,n2)(m_{1},n_{1})\sim (m_{2},n_{2})かつ(m2,n2)(m3,n3)(m_{2},n_{2})\sim (m_{3},n_{3})ならば、あるk,kMk,k'\in Mが存在して

m1+n2+k=m2+n1+km2+n3+k=m3+n2+k\begin{align*} m_{1}+n_{2}+k&=m_{2}+n_{1}+k \\ m_{2}+n_{3}+k'&=m_{3}+n_{2}+k' \end{align*}

が成り立つ。よってMMの元l=m2+n2+k+kl=m_{2}+n_{2}+k+k'に対し

m1+n3+l=m3+n1+l\begin{equation*} m_{1}+n_{3}+l=m_{3}+n_{1}+l \end{equation*}

が成り立ち、したがって(m1,n1)(m3,n3)(m_{1},n_{1})\sim (m_{3},n_{3})となる。

▷定義

可換モノイドMMに対し、上の同値関係による、M×MM\times Mの商(M×M)/(M\times M)/\mathord\simG(M)G(M)と書く。

▶命題.

可換モノイドMMに対して、G(M)G(M)上の演算++

(m1,n1)+(m2,n2):=(m1+m2,n1+n2)\begin{equation*} \overline{(m_1,n_1)}+\overline{(m_2,n_2)}:=\overline{(m_1+m_2,n_1+n_2)} \end{equation*}

によって定めると、これはwell-definedである。また、この演算は可換である。

【証明】

(m1,n1)=(μ1,ν1)\overline{(m_1,n_1)}=\overline{(\mu_1,\nu_1)}かつ(m2,n2)=(μ2,ν2)\overline{(m_2,n_2)}=\overline{(\mu_2,\nu_2)}であったとする。このとき、あるk1,k2Mk_{1},k_{2}\in Mが存在して m1+ν1+k1=μ1+n1+k1m_1+\nu_1+k_1=\mu_1+n_1+k_1m2+ν2+k2=μ2+n2+k2m_2+\nu_2+k_2=\mu_2+n_2+k_2が成り立つ。この二つを足せば、(m1+m2)+(ν1+ν2)+(k1+k2)=(μ1+μ2)+(n1+n2)+(k1+k2)(m_1+m_2)+(\nu_1+\nu_2)+(k_1+k_2)=(\mu_1+\mu_2)+(n_1+n_2)+(k_1+k_2)を得る。 よって、(m1,n1)+(m2,n2)=(μ1,ν1)+(μ2,ν2)\overline{(m_1,n_1)}+\overline{(m_2,n_2)}=\overline{(\mu_1,\nu_1)}+\overline{(\mu_2,\nu_2)}である。

▷定義 (Grothendieck群)

可換モノイドMMに対しG(M)G(M)は上で定めた演算に関して、(0,0)\overline{(0,0)}を単位元とする可換群になる。このようにしてMMに対し得られた群G(M)G(M)を、可換モノイドMMのGrothendieck群という。

G(M)G(M)において、(m,n)\overline{(m,n)}の逆元は(n,m)\overline{(n,m)}となる。

▶命題.

MMを可換モノイドとすると、ι:MG(M)  ;  m(m,0)\iota:M\longrightarrow G(M)\;;\;m\mapsto \overline{(m,0)}はモノイド準同型である。このCMon\mathsf{CMon}における射を自然な射と呼ぶことにする。

【証明】

ι(m+n)=(m+n,0)=(m,0)+(n,0)=ι(m)+ι(n)\iota(m+n)=\overline{(m+n,0)}=\overline{(m,0)}+\overline{(n,0)}=\iota(m)+\iota(n)が成り立ち、さらにι(0)=(0,0)=0\iota(0)=\overline{(0,0)}=0も成り立つ。

Grothendieck群の構成は、次の圏論的な意味で自然である。つまり、Grothendieck群は次の普遍性を持つ。

▶命題.

MMを可換モノイド、ι:MG(M)\iota:M\longrightarrow G(M)を自然な射とする。このとき、任意の可換群NNとモノイド準同型f:MNf:M\longrightarrow Nに対して、f~ι=f\widetilde{f}\circ \iota=fとなるようなモノイド準同型f~:G(M)N\widetilde{f}:G(M)\longrightarrow Nが一意に存在する。

【証明】

任意の可換群NNとモノイド準同型f:MNf:M\longrightarrow Nに対して、f~:G(M)N\widetilde{f}:G(M)\longrightarrow N

f~((m,n)):=f(m)f(n)\begin{equation*} \widetilde{f}(\overline{(m,n)}):=f(m)-f(n) \end{equation*}

と定めれば、これはwell-definedなモノイド準同型となる。 実際、(m1,n1)=(m2,n2)\overline{(m_1,n_1)}=\overline{(m_2,n_2)}であれば、あるkMk\in Mが存在してm1+n2+k=m2+n1+km_1+n_2+k=m_2+n_1+kとなり、これにffを適応すると、ffがモノイド準同型であることとNNが群であることからf(m1)f(n1)=f(m2)f(n2)f(m_1)-f(n_1)=f(m_2)-f(n_2)を得る。よって、f~\widetilde{f}はwell-definedである。 また、任意の(m1,n1),(m2,n2)G(M)\overline{(m_1,n_1)},\overline{(m_2,n_2)}\in G(M)に対して

f~((m1,n1)+(m2,n2))=f~((m1+m2,n1+n2))=f(m1+m2)f(n1+n2)=(f(m1)f(n1))+(f(m2)f(n2))=f~((m1,n1))+f~((m2,n2))\begin{align*} \widetilde{f}(\overline{(m_1,n_1)}+\overline{(m_2,n_2)})&=\widetilde{f}(\overline{(m_1+m_2,n_1+n_2)})\\ &=f(m_1+m_2)-f(n_1+n_2) \\ &=(f(m_1)-f(n_1))+(f(m_2)-f(n_2)) \\ &=\widetilde{f}(\overline{(m_1,n_1)})+\widetilde{f}(\overline{(m_2,n_2)}) \end{align*}

が成り立つので、f~\widetilde{f}はモノイド準同型である。

また、モノイド準同型g:G(M)Ng:G(M)\longrightarrow Ngι=fg\circ \iota=fを満足するとき、 任意の(m,n)G(M)\overline{(m,n)}\in G(M)に対して

g((m,n))=g((m,0)+(0,n))=g((m,0)(n,0))=g((m,0))g((n,0))=g(ι(m))g(ι(n))=f(m)f(n)=f~((m,n))\begin{align*} g(\overline{(m,n)})&=g(\overline{(m,0)}+\overline{(0,n)}) \\ &=g(\overline{(m,0)}-\overline{(n,0)}) \\ &=g(\overline{(m,0)})-g(\overline{(n,0)})\\ &=g(\iota(m))-g(\iota(n))\\ &=f(m)-f(n)\\ &=\widetilde{f}(\overline{(m,n)}) \end{align*}

が成り立つので、g=f~g=\widetilde{f}となる。

ここで、任意の群G,HG,Hとその間のモノイド準同型f:GHf:G\longrightarrow Hに対し、f(x)=f(x)f(-x)=-f(x)が成り立つことを用いた。

この命題は、次のように言い換えることもできる。

▶命題.

可換群のなす圏をCGrp\mathsf{CGrp}と書くと、自然な関手i:CGrpCMon  ;  GGi:\mathsf{CGrp}\longrightarrow \mathsf{CMon}\;;\;G\mapsto Gが定まる。この関手を忘却関手という。 Grothendieck群の普遍性から関手G:CMonCGrp  ;  MG(M)G:\mathsf{CMon}\longrightarrow \mathsf{CGrp}\;;\; M\mapsto G(M)が定まるが、このとき、可換モノイドMMと可換群NNについて自然な全単射

HomCGrp(G(M),N)HomCMon(M,i(N))\begin{equation*} \mathrm{Hom}_\mathsf{CGrp}(G(M),N) \cong \mathrm{Hom}_\mathsf{CMon}(M,i(N)) \end{equation*}

が存在する。即ち、関手GGは忘却関手iiの左随伴である。

自然数から整数を作る

前章では、可換モノイドからGrothendieck群という可換群を得る関手GGを定めた。この章では、可換モノイド(N,+,0)(\mathbb{N},+,0)に対してG(N)G(\mathbb{N})を考えると、これが群としてZ\mathbb{Z}と同型になることを見る。 まずは可換モノイドN\mathbb{N}と可換群Z\mathbb{Z}の基本的な性質を見よう。

▶命題.

(M,+,0)(M,+,0)を可換モノイドとする。このとき、HomCMon(N,M)\mathrm{Hom}_\mathsf{CMon}(\mathbb{N},M)U(M)U(M)は自然に同型である。ここで、UUCMon\mathsf{CMon}からSet\mathsf{Set}への忘却関手である。

【証明】

f:NMf:\mathbb{N}\longrightarrow Mをモノイド準同型とする。このとき、任意のnNn\in \mathbb{N}に対してf(n)=nf(1)f(n)=n\cdot f(1)である。 ここでnf(1)n\cdot f(1)とは、MMの中でf(1)f(1)nn回足すということである。 実際、これはf(n+1)=f(n)+f(1)f(n+1)=f(n)+f(1)が成り立つことからわかる。したがって、N\mathbb{N}からMMへのモノイド準同型はf(1)f(1)の選び方で決まるので、HomCMon(N,M)\mathrm{Hom}_\mathsf{CMon}(\mathbb{N},M)U(M)U(M)は同型である。

同様の議論から、Z\mathbb{Z}に対しても次が成り立つ:

▶命題.

(M,+,0)(M,+,0)を可換群とすると、自然な全単射

HomCGrp(Z,M)U(M)\begin{equation*} \mathrm{Hom}_\mathsf{CGrp}(\mathbb{Z},M)\cong U(M) \end{equation*}

がある。ここで、UUCGrp\mathsf{CGrp}からSet\mathsf{Set}への忘却関手である。

よって、目標の命題を示すことができる:

▶命題.

G(N)G(\mathbb{N})Z\mathbb{Z}は群として同型である。

【証明】

任意の可換群MMに対し次の同型を得る:

HomCGrp(G(N),M)HomCMon(N,i(M))U(M)HomCGrp(Z,M)\begin{align*} \mathrm{Hom}_\mathsf{CGrp}(G(\mathbb{N}),M)&\cong \mathrm{Hom}_\mathsf{CMon}(\mathbb{N},i(M)) \\ &\cong U(M)\\ &\cong \mathrm{Hom}_\mathsf{CGrp}(\mathbb{Z},M) \end{align*}

したがって、米田の補題からG(N)ZG(\mathbb{N})\cong \mathbb{Z}となる。

最後に

この記事では、可換モノイドから可換群を得る自然な方法についてまとめた。そして最後に自然数全体のなす可換モノイドから自然に得られる可換群が、整数全体の定める可換群になることを示した。 写像の自然性については、写像の計算をするだけであまり面白くないため、証明を省いた。